2 急性腎不全と看護



 急性腎不全とは、数時間ないし数日の経過で急激に腎機能が低下した状態を言う。
慢性腎不全が不可逆的なのに対し、急性腎不全は治療により腎機能が改善する可能性がある。急性腎不全はその原因により以下の3つに分類される(表1)。

表1 急性腎不全の原因による分類(Levinskyら)
A)腎前性急性腎不全(循環系の不全)
 1)体液電解質の異常
 2)出血
 3)心筋梗塞
 4)敗血症

B)腎性急性腎不全
 1)急性尿細管壊死、皮質壊死
  a)虚血性(手術後、胎盤早期剥離)
  b)腎毒性物質(四塩化炭素、各種の重金属など)
  c)溶血(異型輸血、その他)
  d)挫滅性症候群
  e)熱傷
 2)急性糸球体炎(糸球体腎炎、結節性動脈周囲炎、ループス腎炎)
 3)腎動静脈の閉塞
 4)急性腎盂腎炎
 5)高度のカルシウム血症
 6)腎内の異常沈殿物(スルフォンアミド、尿酸塩など)

C)腎後性腎不全
 1)前立腺肥大
 2)膀胱、後腹膜の腫瘍
 3)腎結石
 4)尿管閉塞



1.原因と分類

1)腎前性急性腎不全

 腎への血流が低下するために糸球体濾過量が減少して乏尿を来すものを言う。その原因としては、出血や脱水によるショック、心不全、心筋梗塞、腎動脈への閉塞などが挙げられる。この場合はその原因の除去が最も重要であり、それにより腎機能の急激な改善が期待できる。しかし適切な処置が行われなければ、やがて腎自体にも影響が及び、次に述べる腎性の急性腎不全に移行してしまう。

2)腎性急性腎不全

 腎そのものが障害されたために起こる疾患である。中でも特に尿細管壊死は、急性腎不全最大の原因で全体の70%を占める。

3)腎後性急性腎不全

 尿路に狭窄や閉塞などの通過障害が起こったため、尿を排出できず腎不全に陥ったものを言う。
 その原因は尿路の結石、腫瘍、前立腺肥大などである。この場合は原疾患に対して外科的治療が施されて腎不全も治癒することが多いため、透析の適応となることは少ない。

4)急性尿細管壊死

 以下に述べる原因により尿細管の細胞が壊死に陥った状態である。そのため、腎性の急性腎不全を急性尿細管壊死(Acute Tubular Necrosis : ATN)と称する場合がある。

@阻血性急性腎不全
 腎臓への血流が減少することにより尿細管細胞が壊死に陥ったものである。外傷や手術による出血、早期胎盤剥離、ショックなどが原因となる。

A腎毒性物質による急性腎不全
 重金属や抗生剤(カナマイシン、ゲンタマイシンなど)、農薬などの腎毒性物質により尿細管細胞が壊死に陥り腎不全となる。

5)その他

 腎性急性腎不全には、これ以外にも糸球体腎炎、DIC(播種性血管内凝固)、異型輸血、ミオグロビン血症による急性腎不全などがある。


2.急性腎不全の症状と看護

1)急性腎不全患者の看護のポイント

 まずは原疾患の治療が優先されるので、それに応じた看護が必要である。それと同時に腎不全に対する看護が求められる。急性腎不全の病期と症状は図5のように経過するので、それぞれの病期に応じた看護を行う。保存的治療で効果がない場合は透析治療が行われる。尿毒症症状に対する看護は慢性腎不全の項で詳しく述べるが、それに加え急性腎不全で重要な看護のポイントを述べる。

2)水分出納状態の把握と体液管理

 食事摂取量、飲水量、補液量などのINと、尿量・出血量などのOUTを正確に把握し、補液、飲水量、利尿剤を調節することが大切である。体重測定も体液管理の目安となるのでスケールベッドの使用が望ましい。同時に浮腫や呼吸状態の観察も重要である。
 急性腎不全では乏尿期・利尿期・回復期と尿量も変化していくため、状態に合わせた体液管理が必要となる。

3)栄養管理

 低タンパク・高カロリー食が原則である。タンパク量を制限(0.5〜1.0g/s/日)することにより尿毒素の産生を抑えることができる。さらにタンパクの燃焼を抑制するために、糖質、脂質を中心としたカロリー補給を行う。低栄養状態は原疾患の治療を遅らせ、腎不全症状を悪化させ、感染症の発生原因にもなるため、適切な栄養管理は重要である。経口摂取が不可能な場合は中心静脈栄養(IVH)で栄養補給に努める。

4)電解質コントロール

 急性腎不全では電解質の均衡が崩れ、高カリウム血症、低ナトリウム血症、低カルシウム血症、高リン血症などを引き起こす。特に、高カリウム血症は心停止の原因にもなるので厳重な管理が必要である。データチェックと共に高カリウム食品の制限を行う。

5)精神的サポート
 
 急性腎不全では症状が急激に進行するため、本人・家族の不安も大きい。特に、尿毒症による精神症状の出現には本人・家族の戸惑いや失望もあり、治療意欲の減退につながることもあるが、尿毒症による精神症状は一過性のものであり、尿毒症の改善と共に回復していくということを十分に説明し、理解してもらうことが大切である。その上で現在の治療に専念できるように本人・家族を温かく見守り、励ましていくようにする。


(図は後にUP予定)

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