号室


出会いは大学3年の秋だった




 『めぞん一刻』は、小学館発行のビッグコミック・スピリッツ創刊号(1980年10月)より87年4月まで連載された、高橋留美子にとって初のラブコメディ・マンガだ。
 スピリッツは、少年誌よりちょっと上の読者層をターゲットにした青年コミック誌。月刊誌として創刊され、しばらくして隔週土曜日という珍しい発行スケジュールになり、やがて毎週月曜日発行の週刊誌となって現在に至っている。

 1年“先輩”にあたる集英社のヤング・ジャンプが、ひと足早く読者層の確保に成功していた。いわば二匹目のドジョウだが、アプローチはかなり違っていた。
 つまり、専属の執筆陣を新人から育てる信条はヤングジャンプでも貫ぬかれたのに対し、小学館(スピリッツ)はネームバリューのあるベテランをそろえる対称的な戦略に出た。  期待したのは、おそらくブランドの力。ビッグコミックは青年誌の老舗だ。大看板である。その品格は保たれなければならない。
 というわけでの、本宮ひろ志、青柳祐介、はるき悦巳、谷口ジロー、吾妻ひでおといった面々のそろい踏みとあいなった、のだと思う。せっかくの新創刊をコカしたくないという気合いの入り方をひしひしと感じる。目新しさに欠けるという見方もできるが、読者としては目を通さずにポイする勇気はない。どうしたって期待してしまうよ。なかでも、高橋留美子の(たぶん)青年誌初登場というフレッシュなニュースには胸が躍った。

 創刊号を手にしたのは、発売の日、大学で社会学の講義を受けている最中だった。帰りに買って帰るつもりでいたところ、先に買った友人が、「もう読んだから」と譲ってくれたのだ。
 さっそく『めぞん一刻』の掲載ページを探したことは言うまでもない(つまり、講義中にマンガを読むようなタイプの学生だったのだ、ぼくは。その因果が、現在の景気の悪い三流ライターという身分として報いを受けていることも言うまでもない)。

■『めぞん一刻』主な登場人物

 さて、読後感である。
 おもしろい。掛け値なしの本音だ。
 第1回目ということで、登場人物の紹介と、それぞれの人間関係の説明に終始しているにもかかわらず、きっちり起承転結のある「オハナシ」に仕立てているのはさすがだと思う。

 だけど、変な違和感も残った。
 それを言葉にすると、こうなる────「なんかこのマンガ、古くさい感じがしやしないか?」

 社会風刺マンガを得意とする(というか、それしか描けない)斯界の長老が安住の地であぐらをかいて発表した、脳の柔軟性を欠く証明にしかならない保守的な作品の「古くささ」とは、当たり前だけど、ぜんぜん違う。当時、高橋留美子はすでに『うる星やつら』という大ヒット作を持つ人気作家だったが、キャリア的にはバリバリの若手だ。自ら築いてきた世界から一歩も出られず、もがき苦しみながら落ちぶれていく大ベテラン、みたいな図式には当てはまらない。
 ということは、『めぞん一刻』の漂わせる古くささは、意図的なものと解釈することができる。
 なにゆえに? その目的とは、を考察してみたい。



────2号室へつづく







[
Home Page]